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室田拓人/表参道「ラチュレ」オーナーシェフ

ジビエをきっかけに、おいしいの先まで知ってほしい

室田拓人 / 表参道「ラチュレ」オーナーシェフ

おいしい料理を食べるだけでなく、命を大切にいただく人を増やし、ジビエについて知ってもらうことで、山の環境や食のサステナビリティへの関心が高まるのではないかと思います。

ジビエを食べることは、山の環境を守ることにつながる

室田拓人/表参道「ラチュレ」オーナーシェフ

5年連続でミシュランの一ツ星を獲得している渋谷区青山のフレンチ『LATURE(ラチュレ)』のオーナーシェフ・室田拓人さん。ジビエ料理の旗手として知られている。『ミシュランガイド東京2021』では一ツ星に加え、サステナブルな取り組みを積極的に行なうレストランに贈られる『グリーンスター』を受賞した。

室田さんは自ら狩猟免許を取得し、シェフとハンターの両視点からジビエを取り巻く課題に向き合っている。近年、ハンターの減少や高齢化、環境的な要因で国内のニホンジカやイノシシが増え過ぎていることが問題視されているという。

「シカやイノシシなどが農作物を食い荒らしたり、街中にクマが出てきて人を襲ったという報道を見ることが多くなったと思います。しかし、野生鳥獣が人家のある場所まで出てきてしまうのは、人間が彼らの住処である森を壊してしまっているからだと知っていただきたいのです」

食べ物を求めて彷徨う彼らを、悪者として殺処分して終わらせてほしくないと室田さんは話す。

捕獲した動物を、せめて大切に食べてあげることが彼らへの償いになるのではないでしょうか」

しかし実際には捕獲頭数の約9割が廃棄されている。ジビエを食肉加工する認証を取得している施設数がまだ十分にない、多くの需要が見込めないため流通体制が確立されていないなどの理由がある。

「今後はさらにジビエの加工処理施設を増やしたり、僕ら料理人が調理法や食べ方をアドバイスしながらジビエの需要を増やしていきたいと考えています」

レストランだけでなく、家庭でもジビエを

室田拓人/表参道「ラチュレ」オーナーシェフ

日本でのジビエの需要は、10年程前にジビエブームが起こったことで徐々に伸びている。しかしその一方で「ジビエ=臭い」という先入観を持つ人はまだまだ多い。

「昔はジビエの加工処理技術が未発達だったため、臭みが強いものが多かった。そのため年配の方は特に、ジビエは臭いというイメージをお持ちだと思います」

しかし、現在ではジビエの加工処理技術が向上し、2018年には農林水産省が「国産ジビエ認証制度」をスタートさせ、厳格な衛生管理基準を設けている。

「今は、全く臭みのないジビエを食べることができます。ジビエに対する固定観念を崩していくためには、そのことをしっかりと説明して伝えなければなりません。実際においしいと分かってもらえれば、今はSNSなどもあるのでより多くの人に気づいてもらえるチャンスがあると思います」

ジビエをレストランで食べてもらうだけではなく「家庭の食卓に並ぶことが最終目標」だと室田さんは言う。

しかし、スーパーマーケットなどでは、鶏・豚・牛の肉とは別にジビエを取り扱わなければならないと法律で定められているため高いハードルがある。

「それなら、缶詰などの加工食品という形で家庭に届けるのはどうかと考えました。コロナ禍で缶詰やレトルト食品や、そのECサイトでの販売が好調ということもあり、需要があるのではないかと思ったんです」

室田さんは、イノシシ肉を使ったハンバーグを真空パックした商品や、「缶つま」で有名な国分グループとコラボした「ジビエのパテ」などの缶詰を監修している。

「レストランで主に使われるロースやもも肉以外の部位はフードロスになってしまいます。バラ肉、骨、前足などの部位を使うような加工食品を作ることで、ジビエの産業化が成り立っていくと思います」

また、ジビエ需要の拡大にはインバウンドがひとつのキーワードになる可能性がある。コロナ以前には、海外からの観光客がラチュレを訪れることが多かったそう。彼らが寿司や天ぷらなどの和食ではなく、フレンチのラチュレを訪れたのには理由があった。

「寿司などは海外でも食べることができますが、国産のジビエは海外への輸出が難しいため日本でしか食べられません。日本のジビエを食べたいと思って店に来られる海外のお客様が多いのです」

海外の人に国産ジビエの人気が高いことをアピールすることで、日本人が興味を持って食べる可能性が広がる。

「アジア圏には、ジビエ料理がない国もあります。そういった国の有名シェフでジビエに憧れが強い人もいるので、来日してジビエを料理してもらえると注目が集まると思います。今後、そういう企画をやってみたいと思っています」

山の環境、海の環境、全ては循環している

室田拓人/表参道「ラチュレ」オーナーシェフ

室田さんがジビエの課題に気づいたのは、実際にジビエを取り扱い始めてからだったという。

「ジビエの下処理をするようになって、個体差が大きいことに気づきました。中にはすごく臭い鴨もあって、汚い川に住んでいたからだということがわかりました

また、ハンターによる後処理の仕方がジビエの品質に大きく影響していることを知り、いい食材を手に入れるために自らハンターとして狩猟するようになった。

「猟友会に入ったり、食肉加工処理施設の方や多くの人の話を聞くうちに日本のジビエの現状を知るようになりました」

シカが増え過ぎると山の木を食べてしまい、木が枯れて荒地となることで土の栄養が無くなってしまう。山から流れ込む栄養素が減ると、海でプランクトンが育たなくなる悪循環が生じる。

人間が適切な山の環境管理をしないと海の環境も良くなりません。全てはつながっていて、循環しているんです」

山の環境を守るために野生鳥獣を狩猟し、ジビエとして食べる。室田さんは狩猟をするようになって、自分が命あるものをいただいていると実感するようになったという。

僕らは毎日『いただきます』と言いますが、私達が自然から命をいただいていることを忘れてしまっいるのではないでしょうか」と室田さんは指摘する。

「『いただきます』の意味を考えることで、自ずと自然に優しいもの、例えばジビエを食べてみようということにつながっていくと思います」

室田さんは未来ある子ども達に向け、給食などを通してジビエを食べてもらったり、食の問題を伝える活動をしている。

「多くの人は大人になってからはじめてジビエに触れますが、子どものうちからジビエの存在や美味しさを知ることで、将来ジビエが身近になるのではと考えています」

室田さんも若い頃は、おいしい料理を作ること以外頭になかったそう。しかし、今は「サステナブルではない食べ方には意味がない。料理人として世のため人のため何か貢献していきたい」と思うようになったと言います。

僕の料理人としてのテーマは、おいしい先に何があるかということです。ジビエはおいしいですが、環境にいい食べ方ができることがお客様にとって最もハッピーな形になると思います」

室田拓人/表参道「ラチュレ」オーナーシェフ

室田むろた 拓人たくと

1982年千葉県生まれ。武蔵野調理師専門学校卒業。レストラン「タテル ヨシノ」を経て、2010年より「deco」のシェフに就任。その傍ら2009年に狩猟免許を取得。2016年8月 LATURE(ラチュレ)を独立開業。2016年12月、フランス発の美食本『Gault&Millau(ゴーエーミヨ)』にて明日のグランシェフ賞を受賞。2017年11月『ミシュランガイド東京2018』にて一ツ星を獲得、以降毎年一ツ星に輝いている。『ミシュランガイド東京2021』では、一ツ星に加え、サステナブルな食を提供する飲食店を評する「グリーンスター」を受賞した。

取材日/2021年6月

ZENB initiative

おいしく食べるための教養や工夫で、食はもっと楽しくなる

マッキー牧元 / タベアルキスト

ジビエをきっかけに、おいしいの先まで知ってほしい

室田拓人 / フランス料理 シェフ

食と自分に向き合う精進料理の心を世界に伝えたい

青江覚峰 / 住職

洗練されたおいしさは、生産者のやさしさで成り立つ

松本進也 / 日本料理 料理長

食のストーリーへの共感から、エシカル消費は始まる

狐野扶実子 / 食プロデューサー

野菜の可能性を見直すことで、未来の食はさらに豊かになる

米澤文雄 / アメリカ料理 シェフ

食事のとり方ひとつで、心も体も健康になる

満倉靖恵 / 大学教授

人間のクリエイティビティで、サステナブルの先へ

君島佐和子 / 編集主幹

土地のものを活かし、土地のものを残す。それが役割

桑木野恵子 / 日本料理 料理長

包丁の切れ味ひとつで、おいしさはもっと引き出せる

藤原将志 / 包丁研ぎ師

食の大切さ、生産者の想いを、おいしさと共に伝えたい

川副藍 / フランス料理 シェフ

 自給自足中心で より満足のいく味を目指す

笹森通彰 / イタリア料理 シェフ

素材をそのままいただくシンプルな食事が健康へ導く

西﨑泰弘 / 病院長

おいしい日本の食は作る人と食べる人が一緒に作る

高橋義弘 / 日本料理 料理人

大きな生態系につながる一員として考え、料理をする

ジュリアン・デュマ / フランス料理 シェフ

その土地にずっと残っている料理が、本物のおいしさを持つ

小林清一 / イタリア料理 シェフ

新しい当たり前を作ることが未来の食文化を育む

沖大幹 / 水文学者・大学教授

食材選びは、シェフの責任で行う社会貢献活動

パスカル・バルボ / フランス料理 シェフ

本物の味わいを生かせば、未来のおいしさは豊かになる

垣本晃宏 / パティシエ

イタリア料理の精神アンティスプレーコを世界に広める

マッシモ・ボットゥーラ / イタリア料理 シェフ

“健康的な美食”は体と地球を守り、人生を楽しくする

ハインツ・ベック / ガストロノミーイタリアン シェフ

「古代の生活」にこそ、現代人が健康に生きるヒントはある

小林弘幸 / 大学教授

食の未来は、子どものリテラシーを上げれば変わる

小山薫堂 / 放送作家・脚本家

和食のルールに立ち返ることで健康を取り戻す

小西史子 / 大学教授

「感覚」を取り戻せば社会への視点が変わる

佐藤卓 / グラフィックデザイナー

世界に誇る日本の水産資源を守るために進むべき道がある

岸田周三 / フランス料理 シェフ

日本の魚と海の危機を伝える旗振り役として立ち上がる

石井真介 / フランス料理 シェフ

世の中の空気が変われば、解決できる食の問題がある

安中千絵 / 管理栄養士・フードディレクター

日本人に必要なのは、エネルギーとシンプルさを持つ食

大原千鶴 / 料理研究家

食の大切さを、自然に寄り添う意識を高めることで見直す

村山太一 / イタリア料理 シェフ

環境にいい「食べ方」は心身を満たす

西邨マユミ / マクロビオティック・ヘルス・コーチ

食の好循環が、豊かな世界を導く

佐藤祐造 / 医学博士

「おいしく使いきる精神」で100年先の食文化へつなぐ

髙良康之 / フランス料理 シェフ

ジュゼッペ・モラーロ

新しいおいしさ、安全なおいしさの探求

ジュゼッペ・モラーロ / イタリア料理 シェフ

秋山能久(あきやまよしひさ)

食のサステナビリティは未来を変える

秋山能久 / 日本料理 料理長

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