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西﨑泰弘/東海大学医学部付属東京病院 病院長

素材をそのままいただくシンプルな食事が健康へ導く

西﨑泰弘 / 東海大学医学部付属東京病院 病院長

現代人の食生活は、塩分や糖分を摂り過ぎています。自然の素材に手を加えず食べることは、塩や砂糖の過剰な摂取を防ぎ、臓器を傷めることを防げるのです。

自然界になかった人間の食生活スタイルが、その健康を蝕む

西﨑泰弘/東海大学医学部付属東京病院 病院長

日本人の平均寿命は、現在世界最高の水準を維持している。しかし一方で「生活習慣病」が増加しており、その予防が課題となっている。

東海大学医学部付属東京病院の病院長、西﨑泰弘さんは予防医学の第一人者だ。西﨑さんは「人間の食生活が自然からかけ離れたものになってしまったことが、健康を阻害する要因となっている」と指摘する。

「狩猟採集をしていた縄文時代は、素材を加工せずそのまま食べていました。しかし、時代の流れと共に塩や砂糖を精製することができるようになり、味付けされた食べ物を大量に摂取できるようになった。それが不健康を招く大きな要因となっているのです」

塩分や糖分は、人間の生命を維持するために欠かせない栄養素だ。元来、人は体が必要としているものを口にした時に心地良さを感じ、体に害のあるものは苦く不快に感じる。

塩や砂糖を美味しいと感じるのは、体に必要不可欠な栄養素であると同時に、長い歴史の中でいつでも口にできる訳ではない貴重な栄養素だったからでもある。

しかし、農耕や牧畜によって食糧は増え、塩や糖の精製技術を獲得し、さらには冷蔵や冷凍によって食品や素材を貯蔵することが可能になった。そのことによって「人間の食生活は、他の生物とはかけ離れたものになっていった」と西﨑さんは言う。

また、健康に大きな影響を与えているのが食事量と運動量のバランスだ。

「縄文人は1日に3000キロカロリーもの食事を摂っていたとされています。しかし、狩猟採取生活を送る彼らは運動量が多く、従って消費カロリーが多かったため肥満の人はほとんどいませんでした。現代人は食生活が豊かになったのに対して、運動量が減っています。汗をかく量も少ないので、塩分の摂取量は少なくていいはずです。不必要に栄養素を摂り過ぎていることが、様々な現代病の要因になっているのです」

過剰な塩分・糖分が人の健康を壊している

西﨑泰弘/東海大学医学部付属東京病院 病院長

例えば、塩分や糖分の摂り過ぎは、腎臓疾患の重大な要因になっていると西﨑さんは指摘する。

「血液中の塩分や糖分濃度の調節は腎臓で行われています。塩分や糖分は、腎臓の糸球体で老廃物と共に一度排泄されます。しかし、貴重な栄養素なので、尿細管でその99%が再吸収されます。再吸収される塩分や糖分量が多いと腎臓が傷み、それが腎臓疾患の原因になってしまうのです」

塩分を摂り過ぎてしまう理由のひとつが、加齢による味覚の変化だ。

「年をとると味覚が鈍ってくることが分かっています。そのため、料理の味付けとして塩の量が増えてしまう場合があるのです」

人間は、食生活で塩の味に慣れ、生きるために必要な量以上の塩分を求めるようになった。特に日本には塩蔵品が歴史的に多かったため、塩分を摂り過ぎる傾向にあるという。

「和食は、魚や穀類、海藻を中心にしたヘルシーな食事だといわれます。それは確かなのですが、一方で、醤油や味噌、漬物、塩漬けやひものなど、塩を調味とともに保存料として使う文化が基本となっていた面があるのです」

食事の塩分を減らすためには、他の味付けに置き換える工夫によっても解決できる

出汁の成分やレモン、お酢、唐辛子の辛みなど、塩以外の慣れ親しんだ風味付けに変えてみると、とてもいいでしょう」

自然の素材をそのまま食べることが大切

西﨑泰弘/東海大学医学部付属東京病院 病院長

現代の人間は、食べ物を加工することによって栄養素を摂り過ぎる傾向にある。その一方で、貴重な栄養素を摂り損なってしまっているという側面もあるという。

「食べ物を加工することによって、失われているものが多くあります。捨ててしまった部分に食物繊維などの必要な栄養素が含まれているのです。野菜や果実、肉や魚など、ひとつの個体の中に無駄な部分は多分ほとんどありません

素材を加工せず食べることには、栄養面において大きなメリットがあると西﨑さんは言う。加工によって捨てられている皮などの部分に貴重な栄養素が含まれていることがある。その例としてポリフェノールがある。

「ぶどうの皮やブルーベリーに含まれるアントシアニン、甘エビの殻などにもポリフェノールが含まれています。ポリフェノールとは、活性酸素を打ち消してくれる抗酸化物質で、非常に良い栄養成分とされています。

皮には、紫外線や、紫外線によって発生する活性酸素を打ち消すために、抗酸化物質が含まれています。これによって内側にある種子を守っているのです。その成分をそのままいただくのは、栄養面で非常にいいのです。

野菜や果物の皮に多く含まれる食物繊維も貴重な栄養素です。食物繊維は腸内細菌の環境を整える素地となってくれます。腸内細菌の生育状況がいいと、中鎖脂肪酸という太りにくくなる物質を生成したり、心を落ち着かせてくれる物質であるエンドルフィンの生成を活性化するともいわれています」

抗酸化作用を持つ成分の中でも特に注目されているのが、ブロッコリースプラウトに含まれる新芽成分、スルフォラファンだ。

スルフォラファンには、活性酸素消去機能や肝機能改善、睡眠の改善作用があることが、私達の研究で分かっています。

発芽して1週間目の新芽がブロッコリースプラウトです。発芽して3日目のものはブロッコリースーパースプラウトといい、より高濃度のスルフォラファンを含んでいます。

野菜、果物の栄養の中で、皮や新芽などにはとても健康にいい栄養素が含まれています。丸ごと食べることは、結果的に食べ物の廃棄を減らすことにもなります。地球環境の面からも、栄養素の面からも、素材を全て使うという発想が、我々が目指すべきひとつの道ではないでしょうか

一人ひとりのライフステージに合った食事を選ぶ

西﨑泰弘/東海大学医学部付属東京病院 病院長

健康を維持するために最適な食事内容は、ライフステージごとに変化していく。

10代後半から40代前半までは、次世代を残し子育てをする世代です。そのために身体は最大になり身体能力も一生のうちで最高の状態になります。胃粘膜の丈も最高で、胃酸をどんどん出せる状態なので、お肉をたくさん食べても消化する力があります。

しかし年をとると胃の粘膜は萎縮傾向となって短くなり、胃酸の分泌量も下がるので、肉よりも魚や豆腐の方を好むようになってゆきます。それは、もう子どもを産み育てるような激しい身体活動を必要としないからであり、無駄な殺生をせず自分1人の命を継続できればよいためと考えられます」

しかし、ライフステージが変わったにも関わらず、食の嗜好が若い頃のままでは、当然余分な栄養を摂ることになり、従って健康に問題が起こってしまう。

「私は現在、仕事のある平日は1日2食(昼・夕)、休日は1日1食(夕)です。子どもは成長のためにも1日3食を食べることが必要ですが、今の私の生活にはそれで十分で、体調は良いです。逆に3食摂ると太ってしまいデータも悪くなります」

自分の運動量や年齢によって、どれくらいの食事量が必要なのか知りながら食べることが大切だと西﨑さんは言う。

食物連鎖の頂点に立ち、文明を謳歌して好きなだけ栄養素を摂れる時代だからこそ、原点に立ち返って食を見つめ直すことが必要なのかもしれない。

「私自身、加工した食品を日常的に多く摂らないようにしています。野菜、フルーツ、魚の刺身、豆腐などの自然の素材をそのままいただくシンプルな食事が、今後求められていくべきではないでしょうか」

西﨑泰弘/東海大学医学部付属東京病院 病院長

西﨑にしざき 泰弘やすひろ

1986年東海大学医学部卒業。慶應義塾大学医学部大学院、UCLAリサーチフェローを経て、現在、東海大学医学部付属東京病院病院長。同健診センター長、東海大学医学部基盤診療学系健康管理学 主任教授、東海大学大学院医学研究科ライフケアセンター長、日本総合健診医学会副理事長、国際健診学会理事、健康長寿研究教育センター理事長を務める。専門は消化器肝臓病学、予防医学、抗加齢医学。2006年に東海大学医学部付属東京病院病院健診センターに「抗加齢ドック」を開設。著書・監修本に『検査のしくみ 検査値の読み方』(日本実業出版社)。講演、マスコミ出演多数。

取材日/2019年9月

ZENB initiative

 自給自足中心で より満足のいく味を目指す

笹森通彰 / イタリア料理 シェフ

素材をそのままいただくシンプルな食事が健康へ導く

西﨑泰弘 / 病院長

おいしい日本の食は作る人と食べる人が一緒に作る

高橋義弘 / 日本料理 料理人

大きな生態系につながる一員として考え、料理をする

ジュリアン・デュマ / フランス料理 シェフ

その土地にずっと残っている料理が、本物のおいしさを持つ

小林清一 / イタリア料理 シェフ

新しい当たり前を作ることが未来の食文化を育む

沖大幹 / 水文学者・大学教授

食材選びは、シェフの責任で行う社会貢献活動

パスカル・バルボ / フランス料理 シェフ

本物の味わいを生かせば、未来のおいしさは豊かになる

垣本晃宏 / パティシエ

イタリア料理の精神アンティスプレーコを世界に広める

マッシモ・ボットゥーラ / イタリア料理 シェフ

“健康的な美食”は体と地球を守り、人生を楽しくする

ハインツ・ベック / ガストロノミーイタリアン シェフ

「古代の生活」にこそ、現代人が健康に生きるヒントはある

小林弘幸 / 大学教授

食の未来は、子どものリテラシーを上げれば変わる

小山薫堂 / 放送作家・脚本家

和食のルールに立ち返ることで健康を取り戻す

小西史子 / 大学教授

「感覚」を取り戻せば社会への視点が変わる

佐藤卓 / グラフィックデザイナー

世界に誇る日本の水産資源を守るために進むべき道がある

岸田周三 / フランス料理 シェフ

日本の魚と海の危機を伝える旗振り役として立ち上がる

石井真介 / フランス料理 シェフ

世の中の空気が変われば、解決できる食の問題がある

安中千絵 / 管理栄養士・フードディレクター

日本人に必要なのは、エネルギーとシンプルさを持つ食

大原千鶴 / 料理研究家

食の大切さを、自然に寄り添う意識を高めることで見直す

村山太一 / イタリア料理 シェフ

環境にいい「食べ方」は心身を満たす

西邨マユミ / マクロビオティック・ヘルス・コーチ

食の好循環が、豊かな世界を導く

佐藤祐造 / 医学博士

「おいしく使いきる精神」で100年先の食文化へつなぐ

髙良康之 / フランス料理 シェフ

ジュゼッペ・モラーロ

新しいおいしさ、安全なおいしさの探求

ジュゼッペ・モラーロ / イタリア料理 シェフ

秋山能久(あきやまよしひさ)

食のサステナビリティは未来を変える

秋山能久 / 日本料理 料理長

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